bUTTERFLY pARANOIA


[pROLOGUE]

カタタタタタタ

カタタタタタタ

消音機付きのマシンガンを撃っているような低い溜息のような音が続いている。

画面上には何かの計画書のような物がある。

その人物は只それだけが存在意義であるかのように

キーボードを叩きつづけている。

カタタタタタ

カタタタタタ

その人物はいきなり背もたれに体を投げ出した。

「カンペキだ」

その人物はとっくに温度が去ってしまったコーヒーを口に含むと

口元にほんの少し笑みを浮かべた。

無邪気なその笑顔にはどこかゾッとする空虚な瞳が空洞のようにぽっかり空いている。

その人物は先ほど書いていた計画書のような物を保存すると

いつものチャットルームに向かった。

「こんばんわ〜>ALL」


[mILES aWAY]

私は変わった。

もう4ヶ月になる。

それまでは友情や恋愛など自分には関係がないものと思っていた。

「未来に絶望しているわけではないが、たいして希望も持っていない。」

それが口癖だった。

表面的に見る人間を信用できない。

表面的に人間を見て信用できない。

本音など一体何処にあるというのだろう?

そんな4ヶ月前の自分を思い出しては冷笑する。

こうも変わるものかと。

私が変わった原因はチャットだった。

アイヤッパンさんという方とチャットして、

のめりこんで行く自分に何度ストップをかけたことか。

NEZさんの神話同盟にも入ったし、PERSONAさんの惚気話を冷やかしたし、

関東勢でオフ会もやったし、なにより、彼女が出来た。

彼女はOKABAさんという神話同盟の方で同じ絵描きでもあった。

付き合い始めて4ヶ月・・・

私はこれほどまでに充足した時間を味わった事がなかった。

死の事を考える時間も短くなり、悪夢も少なくなってきた。

そして、やっと明日皆に会える。

明日はアイヤッパンさんの別荘で豪華なオフ会だ。

初めて逢うアイヤッパンさんやNEZさんはどういう人なんだろう?

チャットでは毎日話しているが、実際に逢うのは初めてなので緊張する。

そろそろ、皆がチャットに集まる頃だ。

私も行くことにしよう

私はキーボードを叩き始めた

FAR

ENTER


[aFRAID tO sHOT sTRANGERS]

私はOKABAさんと一緒に待ち合わせのポートメッセ名古屋の前に居た。

 

OKABA「貴之ぃ。アイヤッパンさんはどんなかっこしてくるって言ってたの?」

FAR「どんなだっけ?忘れた。」

OKABA「まったく・・・」

FAR「NEZくんなら覚えてる。
たしか、AEって書いてあるTシャツ着てくるって言ってた」

OKABA「なにそれ?」

FAR「ガンダムに出てくるアナハイムエレクトロニクス社のこと」

OKABA「貴之ってやっぱオタクねぇ」

FAR「そうだ、今日はハンドルネームで呼ばなきゃだめだよ。そういう決まりだから」

OKABA「わかってま〜っす。ふぁ〜さん!」

FAR「よろしい!」

 

その時PHSが鳴った

 

FAR「もしもし?」

???「そこでいちゃついてる君。チャックが開いているぞ」

私は即座にズボンの前を確認した。

閉じている。

すると少し離れた所から笑い声が聞こえた。

「こんにちふぁ〜」

「こんにちにゅ〜」

そこには男性が3人と女性が4人、こっちを見て笑っている。

こんばんふぁ〜と言った男性が話しかけてきた。

 

「初めまして、アイヤッパンです。」

以外と好青年だ。

アイヤッパンさんは27歳。おそらく男性陣の中では最年長だろう。

若く見える。

アイヤッパンさんはインド神話のサイトの管理をしており、

私がチャットを始めたキッカケとなった人だ。

それから、みんなの自己紹介が始まった。

こんにちにゅ〜と言ったのはNEZくんで、AEとかいてあるTシャツを着ている。

NEZくんはプログラマーで神話同盟の創設者だ。

他には神生さんという20歳くらいの男性がいる。

オンライン小説のサイトを管理していて、私もよくお邪魔している。

女性の方々はアイヤッパンさんの奥さんのアイヤ@嫁さんに、その従姉妹のなゆさん。

それに高校生の璃音さんとそのお母さんといったところだ。

 

璃音「きょうはらむだくんとおみくんは来ないの?」

FAR「あ、別で来るっていってたよ」

 

本当はOKABAさんと二人で居たかったために別行動にしたのだがまあいいだろう。

 

そこにらむだくんとおみくろんくんがやってきた。

おみくろん「ごめん、遅れちゃって」

らむだ「おみが鼻血出しちゃって」

全員「よくあることです」

こうしてオフ会が始まった。

私はこの時言いようのない違和感を感じていた。

この時の違和感にもっと早く気づいていれば、

もっと早くこの違和感の正体を考えていれば、

私は蝶を見る事はなかったのに・・・・


[oFF tO nEVER nEVERLAND]

アイヤッパンさんの別荘に車で移動中に世間話をしていて大体皆の事がわかってきた。

まず、アイヤッパンさんは本当にイイ人だ。

何より若い。

NEZくんと同じ位に見える。

NEZくんと意気投合していて神話の話しやガンダムの話しを熱心にしていた。

そして、NEZくんも本当にイイ人だ。

NEZくんは自慢の彼女が居るらしいが、今日はきていない。

聞いたら、後から来ると言う。

NEZくんの彼女はどんなだろう?

想像しているとOKABAさんがこっちをにらんでいた。

ヤバイヤバイ。

真紀は妙に勘が鋭い所があるからな。

もちろん、私は真紀・・・・つまりOKABAさん一筋である。

 

アイヤッパンさんの奥さんは31歳というが、とてもそうは見えない。

20代でも通用するだろう。

優しそうな人だ。

 

その従姉妹のなゆさんは髪の毛はチャパツでまつげもクリクリの今時の女の子って感じだ。

今はOKABAさんと何やらファッション関係の話しをしている。

どうやら打ち解けているようだ。

 

もう一台の車の方は璃音さんのお母さんが運転している。

乗っているのは神生さんと璃音さんとらむだくんとおみくろんくんだ。

神生さん以外は全員16歳という事だが神生さんはうまく打ち解けているのかな?

後ろを見てみると運転席の璃音さんのお母さんと

助手席の神生さんがなにやら熱心に話しをしていた。

後部座席は16歳軍団が陣取っている。

どうやらすぐに打ち解けたらしい。

チャットで毎晩喋っているから当然か・・・

 

らむだくんとおみくろんくんはネットをする前からの親友同士だし、

実は東海メンバーも一度オフ会をしている。

アイヤッパンさんとNEZくんと璃音さんとそのお母さんと

アイヤ@嫁さんとなゆさんと神生さんと、さらにNEZくんの彼女まで来ていたみたいで

もうほとんどが顔見知りなのだ。

 

私はというとアイヤッパンさんとNEZくんの会話に参加していて、

やはりすぐに打ち解けた。

 

頭の中でもう一人の自分がそんな自分を見つめている。

その表情は諦めていた。

私はもう、4ヶ月前の私ではない。

私はかけがえのないものを見つけたのだから。

 

アイヤッパンさんの別荘は本当に大きかった。

豪邸だ。

璃音「おっき〜〜〜♪」

東海メンバーも始めてのようだ。

こんな山奥とは言え、これだけの土地を持っているとは相当な金持ちなのだろうか?

私達はまず、食事を取った。

山の幸が沢山出た。

アイヤッパンさんが料理したという。

アイヤッパンさんは板前だから当然だ。

その後カラオケをして河へ泳ぎに行った。

真紀の水着姿がまぶしい・・・

川原を大きなアゲハチョウが飛んでいる。

真紀の頭に止まった。

私は笑いながら写真を撮った。

このオフ会は私のホームページでも報告するつもりだ。

と、いうのは口実で真紀の写真をいっぱい撮りたいというのが本音だ。

これで、真紀の写真は撮り放題だ!

ニヤニヤしてるとNEZくんが寄ってきた。

NEZ「おいおい、OKABAさんばっか撮ってんじゃねーよ」

FAR「そ、そんな・・・別に・・・」

NEZ「ははははは、おーい!皆!FARさんが真っ赤だぞー!」

私は恥ずかしくなって河に飛びこむ。

水の中でついニヤけてしまった。

私は、今、心を許している・・・

 

夜になると花火をしようということになった。

女性陣は全員浴衣姿になっている。

ここぞとばかりに写真を撮りまくるらむだくん。

私も、もちろん便乗した。

花火も終盤にさしかかった頃、NEZくんが私を呼んだ。

NEZ「アイヤッパンさん知らない?」

FAR「さぁ?いないの?」

NEZ「部屋割りしようと思ってたんだけど、何処行っちゃったんだろ?」

FAR「俺も探してみるよ」

女性陣は最後の線香花火をしていた。

アイヤ@嫁さんは庭を歩き回っている。

アイヤッパンさんを探しているのだろう。

おみくろんさんが私とNEZくんの方に寄って来た。

おみくろん「あの〜」

NEZ「なに?」

おみくろん「鼻血出ちゃって・・・洗面所はどこですか?」

FAR「またか・・・」

NEZ「食堂の隣の道の突き当たりだよ」

おみくろん「はあ、すいません」

FAR「それにしてもアイヤッパンさんは何処へ・・・」

NEZ「案外トイレでしょ。オレも行って見てくるよ。
ちょうどオレもしたかったんだ。今朝から一回も出してない。」

おみくろん「じゃあ、一緒に行きましょう」

NEZ「おう」

そして私は一人になった。

なゆ「いや〜ん。雨降ってきた〜」

ん?降ってはいないようだが?

空を見上げる。

すると屋根から紙ふぶきがひらひらと舞っている。

蝶の大群のようだ。

ああ、アイヤッパンさんだ。

こういう企画を考えるのが好きなのだあの人は。

まさか、屋根にまで登るとは思わなかったから思わず苦笑する。

 

其の時だった

OKABA「キャーーーーーーーー!!」

 

私は全速力でOKABAさんの元に向かった。

OKABAさんはなゆさんの方を指さした。

全員の視線がなゆさんに集中する。

なゆさんは血まみれだった。

FAR「どうした?!」

なゆ「えっ?」

なゆ「キャーーーーーーーー!!」

全身血まみれの姿にやっと気づいたようだ。

なゆさんの血ではないみたいだ。

 

私は屋根の上を見上げた。

全身血まみれで目を見開いているアイヤッパンさんがそこにいた。

彼の手のひらからこぼれる紙片はあたかも死体に群がる昆虫のようだった。

 

私の中の私は私に語りかける

「コレガオマエノヤスラギカ?」

 


第1部完

第二部へ続く